今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由 を読んだ。
著者は Jaron Lanier 、バーチャル・リアリティの父と呼ばれている人。 昨今の「VR」の印象とは裏腹に、現実世界の自然と人間の価値に重きを置いていて、それを発展させる手段としてVRなどのテクノロジーを位置付けている(ざっくりとした認識でしかないが)。
Jaron Lanierの著書は「人間はガジェットではない」も読んだのだが、そっちはだいぶ思想が強め & 独自用語が全面に出ていて個人的には読みづらかった。 本書は、SNSという一般的な題材を取り扱っているので幾分読みやすいが、それでも少なくとも The Social Dilemma で語られているような背景を知らないと、著者の考えを理解することは難しいと感じた。
本書が出版された2019年だが、2024現在はNetflixで 監視資本主義: デジタル社会がもたらす光と影 (なぜThe Social Dilemmaの邦訳がこのタイトルなのが理解できない)が気軽に視聴できるので、まずはそれを視聴した上で本書を読むことをお勧めする。
メモ
(2019年段階の著者の見解であることに注意)
- 現在のソーシャルメディアの問題点はビジネスモデル
- 彼はそれを "BUMMER" と定義
- 主なBUMMERはGoogle, Facebook(現Meta)
- 広告によって自由意志が広告主によって制御されうる
- 広告による収益を最大化しようとすると、ユーザーファーストにならない
- 人間には群れ/一匹狼スイッチがある
- 群れ: 人間の相互関係を重視、権力闘争や支配、集団の序列に心を囚われる
- 一匹狼: 自由、自分のために考え、選択する
- 一匹狼であるべき
- ソーシャルメディア上のフェイクパーソンによって陰謀論が助長する
- フォロワー数、いいね数などは作り物のフィードバック
- クリックベイトを最適化するに過ぎない
- まだ文脈が破壊されていないメディア: ポッドキャスト
- 時間の問題
- フィルターバブル問題
- 意見の違う他人が見ているものを見れないのが問題
- テレビ番組はそうではなかった
- 他者がどのような情報を得ているかが不透明
- 集団によってデタラメに評価される
- 得体の知らない、オープンではないアルゴリズムからの評価
- 評価ゲームはほぼ全ての人が敗者になる
- 専門知識を世に示すとBUMMERのクラウド or
AIサービスによって撒かれ、経済的安定を脅かす
- 個人が提供するデータの価値に見合った料金を受け取れていない
- 「労働としてのデータ」
- 個人が提供するデータの価値に見合った料金を受け取れていない
- BUMMERプラットフォームは最初はうまくいくが、変貌し、過激化する
- BUMMERは人間性を否定する
- インターネットやソーシャルメディアそのものに問題はない
- ビジネスモデルが問題
- 自分の情報生活を自分で管理しよう
- 恒久的にソーシャルメディアアカウントを持たないように、とは言ってない
- ソーシャルメディアアカウントを削除してみるのを試してみよう
感想
やはり著者の思想が色濃く出た文章だったが、概ね自分の見解と一致した。逆に言えば、自分の想定を超えるような新たな見識は特に得られなかったかもしれない。
自分はもとよりSNSアカウントを削除したい派だったので、それへの気持ちが高まったのは確か。 一方で、Xアカウントに紐づけられたサービスが多く、まだ削除する勇気はない。モバイルアプリはもうとっくにアンインストールしているし、WebブラウザからSNSを見る時間も以前に比べたらだいぶ減ったのだが。
とりあえずの一歩として、なんとなしに使っていた検索エンジンをGoogleからBrave searchに変えた。Braveは広告以外の収益モデルの構築にチャンレジしているので、積極的に応援していきたい。
オープンソース/フリーソフトウェアについて
「人間はガジェットではない」でほんの少し触れられていたオープンソース/フリーソフトウェアに対する批判が、本書ではもう少し掘り下げられていた。オープンソース/フリーソフトウェアによって無料でコンテンツを提供する慣習が広まり、それが広告モデル(そしてBUMMER)を助長したという。
Elasticsearch, Terraform Redis などのライセンス変更の流れも合わせて考えると、オープンソースを取り巻くビジネスモデルには、まだブレイクスルーが必要だと感じた。
翻訳について
一部技術用語を翻訳者が理解できなかったのか誤訳していた箇所があった(頭の中で自動的に誤訳を訂正してしまったため、どんな単語でどこにあったか覚えてない)が、概ね読みやすかった。 ただ、ピザゲートの比喩を「ピザゲート」という単語なしで使用されているところに補足がないなど、本書が取り上げている問題の背景知識がないと唐突に意味がわからない表現が出てくるのが、読者を選ぶところかもしれない。(ゲーマーゲートは節まるまる解説があったのだが...)
最後に
本書の中心的な主張ではないが、個人的に印象的だった著者の見解を引用する。
ゲームの世界には素晴らしい点がたくさんあるが、その潜在的な力をまだ十分に発揮できていない。 ビデオゲームはより複雑な問題について学び話しあうための新しい方法となるべきだ。 少しはそうはなりつつあるが、売れ筋の商品は、同じ購買層をターゲットにするものになりやすい。 銃を手に入れ、戦場を進み、誰かを銃撃する。そればかりだ。 ゲーム産業はその実力をもっと発揮するべきだ。
via 今すぐソーシャルメディアのアカウントを削除すべき10の理由 P176