30代後半のソフトウェアエンジニアとして転職は、単なる「環境を変えたい」というだけじゃなくて、「この先10年どうやって生きるか?」という話になる。

今回、今までとはまったく違う感覚での転職活動になったので、記録として残しておく。

活動結果サマリー

スカウトについて

複数の転職サイトを使っていたけど、実際にスカウト数をカウントしていたのはFindyだけ。 LAPRASやForkwell、YOUTRUST、Wantedlyなどからも届いていたので、実際はもっと多かったはずだけど、途中で数えるのが面倒になってやめた。

SNSなどで「35歳を過ぎるとスカウトが来なくなる」といった話も目にしていたけど、そんなことは全然なくて、 むしろ毎日スカウトの通知がいくつも届いて、一覧を眺めるだけでもまあまあしんどかった。

転職活動スケジュールと戦略

2024年11月の時点で2025年2月末日に退職することが決まっていた。 諸事情により、2025年5月、遅くとも6月からは次の職場で働き始める必要があった。

今までの転職は「良いところがあれば〜」くらいのペースでやってたので、今回はだいぶ追い込まれていた。

なので、以下のようなおおよそのスケジュールを組み、余裕を持って転職先を決めることにした。

しかし、そううまくはいかなかった。 20社以上と面談を重ねるうちに、自分がどの方向に進むべきかわからなくなってしまった。

どこも魅力的で、いずれの企業にも自分のスキルを活かせそうであり、キャリアにもプラスになるように思えたため、自分の中での優先順位がつけられなくなった。

ミドルエイジのキャリア課題

2025年4月で不惑を迎える(迎えた)。

今まではおおよそ5年ごとに転職をしてきたが、今後そのような間隔で環境を変えることができるのか不透明だった。 さらに10年後、20年後、自分はどうなっているのか、どんな仕事をしているのか、全く想像がつかなくなった。

年齢的に言えば、もう若手じゃない。 伸び代とかポテンシャルとかで評価されることも減ってくるし、「マネジメント or スペシャリスト?」を問われることも増えた。

でも一番困ったのは、自分がいわゆる“ジェネラリスト”だったということ。
サービス開発においてはある程度はフルスタックにできると思うし、未知の領域のキャッチアップの早さにも自信がある。

でも何かに尖ってるわけじゃない。そういう自分が今の転職市場でどう見られるのか、結構怖かった。

そこにきて、生成AIの流れも無視できない。 今のスキルが5年後にどこまで通用するかなんて、全然わからない。

だからこそ、一回立ち止まって自分のキャリアの軸を見直す必要があると感じ、当初のスケジュールを変え、12月は自身のキャリアを見つめ直す時間に充てることにした。

キャリア再考

そこで読んだのが ストラテジック・キャリア で、これを参考に、以下のようなことを考えた。

  1. 自分の強みを知る
    • 過去に他者から評価を受けたこと/発言をまとめて、ChatGPTに分析させた
  2. PVP(Personal Value Proposition) を作成する
    • 書籍に沿ったプロセスで、読書メモとChatGPTを使って言語化を進めた
  3. 将来的にこうありたい、という明確なビジョンを定める
    • 「理想のプログラマー」という軸を3つに絞り込んだ
      • 「ソフトウェアエンジニア」じゃなくて、job descriptionに縛られない表現を選んだ

こういう作業をやってるうちに、将来の不安が少しずつ解消され、自分のキャリアに対する考え方が整理されていった。

応募企業の選定

カジュアル面談を重ねてスプレッドシートにまとめ、「理想のプログラマー」の3軸に照らし合わせて、各企業とのfit & gapをスコア化し、 そのスコアの上位企業を優先的に選考を進めていくことにした。

もちろん数字だけで決めたわけではないけど、点数をつけることで優先順位が見えてきたのは大きかった。 気持ちが揺れたときに、第三者視点で見つめ直すための判断材料になった。

選考フェーズの振り返り

だいたい2025年1月ごろから選考に進みはじめた。

どの企業も面談を通じて好印象を持っていたが、選考が進むと、思わぬ相性のズレが見えてくることもあった。 途中でポジションが変わったり(テックリード枠で進むことになったり)、手応えはあったのに落ちたり、逆にこちらから辞退した企業もあった。

内定をいただいた企業の中には、オファー面談後に会食の場を設けてもらったり、こちらの不安や疑問にも丁寧に向き合ってくれた会社もあって、とても印象に残った。

最終的にその企業のうち一部には辞退の連絡をしたものの、誠意を持って向き合ってくださったことには深く感謝しており、今後も陰ながら応援したいと思っている。

選考を通じて得た視点

選考を何社か受ける中で、共通して求められていたスキルや姿勢がいくつかあった。 これらはあくまで自分に対する期待ではあるが、現代のソフトウェアエンジニアに対する一般的な期待の変化とも重なるように感じた。

プロダクト志向であること

選考過程でよく問われたのは「プロダクトの価値をどう高めるか」に関する視点だった。 たとえバックエンドやインフラ領域であっても、事業やユーザーとの接点を理解しながら動けることが強く期待されていた。

チームや組織を動かす役割への期待

いくつかの企業からは「周囲を巻き込んでチームを前に進められるか」への期待が明確に示された。 自分の場合、技術選定や開発プロセスの整備、ドキュメント標準化、他メンバーの巻き込みといった行動が評価されていたようで、 それらをより広範囲で発揮してほしいというリクエストにつながっていた。

マネージャーじゃなくても、現場にいながらチームに影響を与えるような動きができるかどうか、そこが問われていた気がする。

組織横断的な貢献

役割やチームの枠を超えた貢献にも注目が集まっていた。 複数の企業で「自分のチーム以外の課題にも目を配り、必要に応じて巻き取っていけるかどうか」という姿勢が求められていた印象。

これまでに職種横断のプロジェクトや、チーム間をつなぐような動きが多かったことが、ここで想定以上に評価されていたと感じる。

プロダクト責任者的な視座

プロダクトマネージャ経験があるからか、「技術と事業の両面に責任を持つ立場」を期待されることも多かった。
具体的には、シニアエンジニアとして開発チームに所属しながらも、要件整理や事業戦略の技術的実現可能性を見極めるような、 「技術と事業をつなぐ」動きを期待される場面があった。

自分としては、そこにどこまで関わるべきかは迷いもあって、今回の転職ではあえてそういう役割からは一歩引いたが、 「この立ち位置をどう捉えるか」は今後のテーマとして残ってる。

最終的な選定理由

最終的には、いくつかもらった内定の中から、1社を選んだ。
決め手は「自分がどう在りたいか」だった。待遇とか知名度とか、もちろん無視はできないが、 今回は、それよりも「これから10年、自分はどうやって働いていくのか」を軸に考えることにした。

何社かからは、プロダクト責任者的な立ち位置や、テックリードとしての役割を期待された。 これまでのキャリアを考えれば、それは自然な流れに思えた。 プロダクトマネージャやチームリーダーの経験もあり、そうした役割を引き受けること自体にも抵抗はなかった。

だが、それは本当に自分が目指していた姿なのか?と立ち止まって考えたとき、違和感が拭えなかった。

理想に立ち返る

転職活動の途中で立ち止まった時に「理想のプログラマー」という軸を定めた。 それは、自分がどう在りたいかを言語化したもので、いろんな迷いの中でも戻ってこられる軸だった。

プロダクト責任者やテックリードという立場は、その軸とは少しずれた位置にあるように思えた。

確かに、そのような役割に進むことでキャリアとしては安定するしそれを期待される場も少なくはない。報酬面でも、より大きな期待が持てるだろう。 だが、それはむしろコンフォートゾーンそのものであり、そこにワクワクして働く自分の姿を想像することができなかった。

自分なりの選択基準

世の中には自分より優れたエンジニアが数多く存在する。 生成AIの登場で、ただでさえ競争が激しいこの業界に、さらなる変化が起きてる。

AIエージェントにより「生半可なスキル」は淘汰されるのではないか。 その危機感は強く感じていたし、実際、今回の転職活動でも何度も自問することになった。

だからこそ、軸をぶらさずに選ぶことを重視した。

「とりあえず生き延びる」ことだけを優先して選んだら、いずれ自分自身の納得感を損ない、その選択に後悔することになるだろう。 そんな姿を子どもたちに見せたくなかった。

選んだ道には、不安も当然ある。 プロダクト責任者やチームリーダーのように、希少価値が高い環境をあえて選ばず、より技術の深い領域に向かうという判断は、自分にとって大きな挑戦でもある。

だが一方で、生成AIによって学習コストは劇的に下がっていて、挑戦のハードルもまた下がっている。 また、自分のこれまでの経験は割とユニークな文脈を含んでいる気がして、それを活かすことで自分なりの価値提供ができるのではないかという感覚もある。

最終的に、自分が納得できる選択をした。
そして今は、その判断が正しかったと思えるよう、日々を積み重ねていきたいと考えている。

転職活動を振り返っての反省

今回の転職活動では、短期間で多くの企業とやり取りを行ったこともあり、反省点も残った。

特にしんどかったのは、スカウトが多すぎて処理しきれなかったこと。 毎日似たようなポジションのメッセージが来て、読んでるうちにどれがどれだかわからなくなった。 結局、ちゃんと返信できなかった企業も少なくない。

あと、期限が決まってたからこそ、メンタルがずっと張りつめていた。 転職エージェントからの連絡も放置してしまって、申し訳ないことした。

一方で、生成AIのサポートを受けながら情報整理や選考準備を進めることができたことは、精神的な負担の軽減に大きく寄与した。
特に、複数の企業とのやり取りを並行する中では、情報の要約やメッセージ本文の下書きなどにAIを活用したことで、一定の精神的余裕を確保することができた。 全部を自力でやってたら、途中で折れてたかもしれない。

今後同じような転職活動を行う人がいるとすれば、最初からテンプレート化と感情マネジメントを意識することをおすすめしたい。

というか、転職サイト側のメッセージのやり取り自体、AIチャットで間接的なやりとりさせるとか、メッセージ自動生成するとか、スケジュール自動調整とかメール自動送信とか、 そういうのが組み込まれていてもいいんじゃないかと思った。

今後の展望

今回選んだ職場は、今までよりも一段深い技術領域に踏み込む環境。 中長期的には、クラウドインフラや仮想化基盤など、抽象度が高く、学習コストが高い領域にどっぷり浸かっていきたいと考えている。

また、設計やドキュメント整備といった、技術と運用の間をつなぐ領域にも引き続き取り組む。 アーキテクチャやプロセスを言語化して、再現可能な仕組みに落とし込むことは、組織全体の生産性や持続可能性に大きく寄与すると信じている。 そうした「文書化する技術」は、生成AI時代において改めて価値を持つ領域でもあり、引き続き注力していきたいテーマのひとつ。

また、勤務先に閉じず、副業や技術コミュニティとの接点も活用しながら、長期的な視点で外部環境の変化に耐えうるようなキャリアの柔軟性を確保していきたい。

まとめ

今回の転職は、あらためて「どう在るか」を軸に選んだキャリアの再構築だった。 こういう節目のタイミングで一度立ち止まってみて、改めて自分の軸を持ち直すことができた。

そう考えると、中年の危機、ってのも悪いものじゃなかったのかもしれない。